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【12月14日】女子高生の噂がパニックを引き起こした。豊川信用金庫事件



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豊川信用金庫(Wikipedia)

 本日12月14日豊川信用金庫事件の日とされています。1973年12月、愛知県宝飯郡小坂井町(現・豊川市)を中心に「豊川信用金庫が倒産する」という噂(デマ)から取り付け騒ぎが発生し、短期間に約26億円もの預貯金が引き出された事件です。
 警察が信用毀損業務妨害として捜査を行った結果、女子高生の雑談をきっかけとした自然発生的な流言が原因であることが判明しました。
 デマがパニックを引き起こすまでの詳細な過程が解明された珍しい事例であるため、心理学や社会学の教材になることも多いのでご存知の方も多いと思います。

ことの経緯は、女子高生たちの会話でした。

●1973年12月8日(土)、下校中の飯田線車内で、豊川信用金庫に就職が決まった女子高校生Aを、友人B・Cが「信用金庫は危ないよ」とからかいます。
 この発言は同信金の経営状態を指したものではなく、「信用金庫は強盗が入ることがあるので危険」の意味で、それすら冗談でしたがAは真に受けます。その夜、親戚のDに「信用金庫は危ないの?」と尋ねます。

言われた親戚Dは、その信用金庫を豊川信金だと判断して(Aが就職するから)、同信金本店の近くに住む親戚Eに「豊川信金は危ないのか?」と電話で問い合わせしました。

9日(日)  親戚Eは美容院のFに、「豊川信金は危ないらしい」と話しました。

10日(月) 美容院のFは、親戚Gにこの話をした際、居合わせたクリーニング業Hの耳に入り、彼の妻Iにも伝わります。

11日(火) 小坂井町の主婦らの間で豊川信金の噂が話題となり、通りがかりの住民の耳にも入る。この頃、噂は「豊川信金は危ない」と断定調になります。

●12日(水)   町の至るところで、豊川信金の噂の話題が持ちきりとなります。

●13日(木)、クリーニング業のHの店で電話を借りたJが「豊川信金から120万円おろせ」と電話の相手に指示をしました。Jは噂を全く知らず、ただ仕事の支払いで金を下ろす指示をしただけだっでしたが、これを聞いた妻Iは「同信金が倒産するので預金をおろそうとしている」と勘違いし、慌てて同信金から180万円をおろします。

●その後、H・Iは知人にこの話を喧伝、これを聞いたアマチュア無線愛好家が、無線を用いて噂を広範囲に広めます。
 この後、同信金窓口に殺到した預金者59人により約5000万円が引き出されることになります。当時はATMなんでありませんから、銀行側も何が起きているのかわかりません。押し寄せる預金者たちとの間でパニックになります。
 同信金小坂井支店に客を運んだタクシー運転手の証言によると、
昼頃に乗せた客は「同信金が危ないらしい」
14:30の客は「危ない」
16:30頃の客は「潰れる」
夜の客は「明日はもうあそこのシャッターは上がるまい」
と時間が経つにつれて噂は誇張されていきます。

●14日(金) 事態の収拾のため、同信金が出した声明が曲解され、パニックに拍車が掛かる。その後、「職員の使い込みが原因」「理事長が自殺」という二次デマが発生し、事態は深刻化します。

 信金側の依頼を受け、マスコミ各社は14日の夕方から15日朝にかけて、デマであることを報道し騒動の沈静化を図ることになります。


●15日(土)  大蔵省東海財務局長と日本銀行名古屋支店長が連名で同信金の経営保障をすると発表。自殺したと噂された理事長自らが窓口対応に立ったことも奏功し、事態は沈静化に向かいます。

16日(日) 警察がデマの伝播ルートを解明し、発表し、事態は沈静化しました。

 わずか一週間の出来事でしたが、この時に動いた金額は26億円。
 事件が発生した1973年当時は、10月にトイレットペーパー騒動が発生したばかりで、デマが流れやすい下地があったことも原因にあげられています。

 さらにはこの事件の7年前に隣の豊橋市の金融機関が倒産するという事件があり、出資者の手元に出資金がほとんど戻ってこないという大きな被害を与えていました。
 このクリーニング業のHもこの7年前の倒産被害者であったため、善意で周囲の人間にデマを広めてしまったことも原因でした。
 こうした背景をもつHの目の前で、Jが大金をおろすよう妻に指示したため、デマがリアリティを獲得し、パニックの引き金となります。

 これほどまでに経緯が分かる事例も珍しいですよね。この事件は、小説にもなりました。
清水一行の短編小説「銀行取付」という小説で、「ケチなワンマン理事長が宣伝費をかけずに知名度を上げるため、自行の信用不安情報を流布させた上で日銀の担当者に健全経営ぶりを喧伝させる」という内容になっています。

 社会的不安がベースにあって、そこに、ちょっとしたリアリティを与えるとパニックの引き金となる良い事例です。地震や天変地異、社会情勢の不安など、今後も起きないとは限りませんし、不安を与えるような噂話には注意したいものですね。

 ちなみにこの騒動の最中に何食わぬ顔で冷静に預金にきた人もいたそうです。それは、2年ほど前にペイオフ制度ができて、預金が保護されることを知っている人でした。
 「何焦ってんだこいつら?」という感じなのでしょうね(笑)。正しい情報を持っていることはデマに流されない強みになります。




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